岡山フィル特別演奏会 ニューイヤー・コンサート2020 [コンサート感想]
岡山フィルハーモニック管弦楽団特別演奏会 ニューイヤー・コンサート
ロッシーニ/歌劇「絹のはしご」序曲
パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第1番
〜 休 憩 〜
ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」ハイライト
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ヴァイオリン独奏:福田廉之介
アルマヴィーア伯爵:松本敏雄
バルトロ:柴山昌宣
ロジーナ:柳くるみ
フィガロ:山岸玲音
ドン・バジリオ:片桐直樹
ベルタ:畑山かおり
構成・司会:柾木和敬
コンサートマスター:近藤浩子、高畑壮平(1曲目のみ)
前半に地元期待のソリストが再び登場、後半はオペラのハイライトとはいえ1時間以上の中身の濃い構成。とても1回のコンサートで聴いた感じはない、2時間30分以上のボリューム満点のコンサートになった。
パガニーニのコンチェルトの演奏を聴くのは3回目で、大フィル定期と京響定期の2回聴いたクリストフ・バラーティの強烈な印象が残っていて、「あれを超える演奏には出会えないだろうなあ」と思っていたが、今回の福田さんの演奏は、超えないと思っていた一線を超えた演奏だった。まず音が美しい!これは福田さんをこれまで4回聴いてきて、常に感じている美点。そして、スケールと言うか構えの大きさ。この曲、スピカート、フラジオレット、左手でピチカートをしながら運弓で旋律を奏でるなど、超絶技巧のオンパレードで、そういったテクニックももちろん凄いのだが、技巧が演奏の足かせになるどころか彼の描き出す雄大な音楽の中のエッセンスだと思わせるような、そんなスケールがあった。1年半前のチャイコフスキーのコンチェルトでの岡山フィル登場時よりも二回りも三回り、どころか五周りぐらい大きな存在感で帰ってきた感じ。ヴァイオリニストとしての総合力が全方位的に成長し続ける・・・僕は福田さんをヴィルトゥオーゾではなく「ファンタジスタ」と呼びたい。
まだ20歳なんですねえ・・・。つい数年前までは岡山から一流のヴァイオリニストを出そう、ということで地元あげて応援していたのが、もう我々が彼を応援して送り出すというフェーズは過ぎていて、すでに日本を代表するヴァイオリニストになって、今回のように岡山の人々に多くのものをもたらせてくれる。 ソリスト・アンコールは、パガニーニの24のカプリースから24.クワジ・プレスト。あのパガニーニのコンチェルトのあとに、この曲をアンコールで弾くとは・・・。恐るべし。青天井の成長力を感じた演奏だった。
岡山フィルの演奏は、1曲めの絹のはしごからガツンとカマしてくれた(笑)美しいロッシー二独特のヴァイオリン隊のグリッサンドで「やられた〜」と。1曲目でこんなに濃厚で、スピード感のある演奏が出来る!?と驚いているうちに嵐のように終わった。カーテンコールの際にソロを取ったオーボエとピッコロ(どちらも素晴らしかった!)のあとに第1ヴァイオリンを立たせたのも納得。
今回は楽器配置もいつもと違っていて、1stVn12→2dnVn10→Vc8→Va8という、僕が記録する限りではシェレンベルガー指揮のコンサートではじめてヴィオラがアウトに位置した。コントラバスもチェロとヴィオラの間に紡錘陣形で位置取る。
2曲めのパガニーニの時に異変が。1曲めの序曲の際のコンマスは確かに高畑さんだった。しかし、2曲めに入ったとき、コンマス席に高畑さんではなくて近藤さんが座った。後半の「セビリアの理髪師」も近藤さんがコンマスだったので、結局「絹のはしご」序曲だけ高畑さんがコンマスだったことになる。このパターンはあまり見たことがない。
「もしかして高畑コンマスにアクシデントでは?」と感じた。というのも、探るような感じの演奏になる場面が多く、最近の岡山フィルからするとちょっと「らしく無い」面も見られたからだ。全体的には岡山フィルの伴奏は迫力のある躍動感溢れる演奏で(正直、冒頭では「こんなに鳴らしたらソリストは大変だ」と思ったほど鳴りが良かった)、決して悪い演奏ではなかったが・・・。パガニーニのオーケストレーションは・・・まあ、何度聴いてもオーケストラ部分に関しては「労多くして・・・」の印象は否めない。弦管打が一斉に「ジャン」という合いの手が入るのだが、各楽器の特徴を引き出しているとはいい難く、ソリストとのタイミングも恐ろしく取りづらそう。この曲の伴奏を完璧に演奏した京響はやっぱり凄いんだな、と思った。
首席コンマスにアクシデントがあったのだとしたら、これだけの演奏が出来るということは、逆に凄いチームワークではある。
(2月1日追記)
オーケストラの状態を心配しながらの後半になったが、そんな心配を他所に、どうしてどうして弦楽器はブンブン鳴りに鳴る分厚いサウンドの凄い演奏になった。
後半のロッシーニは序曲集ぐらいしか聴いておらず、 CDや映像も含めてオペラをほとんど聴くことが無かった。 序曲集を聴いただけのイメージでは、人間の感情に寄り添う「効果音」 的な音楽づくりをした作曲家だが、ドイツのシンフォニー作曲家に比べると軽量級だと感じていた。しかし、どうしてどうして、 この日の岡山フィルの演奏会を聴いて自分の不明を大いに恥じることになった。
ロッシーニ、これほど職人技が散りばめられた音楽だったとは! 充実のオーケストレーション、聴き手の気持ちに寄り添い、 時に煽り(ロッシーニ・クレッシェンドの効果的なこと!)、 そして何よりも楽しい音楽。
これには、 重量感とスピード感という要素を両立させたシェレンベルガー& 岡山フィルの演奏によるものも大きいと思う。イタリア・ オペラというよりもドイツ系のオペラのようなガツンと聴 き応えのある重厚感。
こういう予想外の体験ができるのもサブスクリプション(定期会員)ならでは。 自分の興味の範疇外のプログラムでも、「シェフ」 のオススメとあらば、味わってみるかな、という縁で、 素晴らしい体験が出来る。
舞台上には小道具(椅子、サイドテーブル、オルガンなど)のみ。しかし、 お金はかかっていないが恐ろしく手間はかかっている。 どこまでをナレーションにして、どこから歌とオーケストラの演奏で表現するか。 わずかな小道具と演技だけで聴衆にどうやって作品の魅力を伝える かを苦心したに違いない。全曲2時間40分のうち、ハイライトとは言え1時間15分というボリューム満点の内容。いやまあ、僕にとってはオーケストラが伴奏している、というだけでも充分に贅沢な舞台。
このコンサートに先立って、 レクチャーコンサートがあったらしく( 岡山大学のホールの方は知っていたが、 同じ日の夜にシンフォニーホールのイベントホールでもやっていた らしい)、 それを聴きに行っていれば歌手の方々の歌を間近に聴けただろうと 思うと、聴けなかったことが残念だった。 おそらく歌手の方々の打ち合わせやリハーサルで岡山に集結してい た機会に設定されたコンサートだったのだと思うが、 ハイライト公演とは言えオペラに馴染みが少ない岡山の聴衆へのレ クチャーも兼ねつつ、 反応を見ながら当日の舞台を練り上げていったのだろう。
歌ではロジーナ役の柳さんの魅力的な声と演技( 第1幕のフィガロとの二重唱での抜け目の無いロジーナをチャーミングに演じた表情が最 高だった)、フィガロ役の山岸さんのハリのある若々しい声( 冒頭のカヴァティーナから圧倒される!)に魅力を感じ、一方で、 柴山さんのバルトロ、片桐さんのドン・バジリオ、 松本さんの伯爵はイタリア語上演のはずなのに、 プログラムのセリフ集を見なくても、何を言っているのか、 こちらに伝わるのがさすがの演技と歌である。
コメディの方も、 フィガロがバルトロの髭を剃る場面でのドリフのコント顔負けのシ ェービングクリームを塗りたくり、アロンソ(伯爵) とバルトロの二重唱では、 あまりにしつこいアロンソにバルトロが最後に「 ええかげんにせられえ!」 と岡山弁でキレるというネタをぶっこんできて大爆笑に。
オーケストラの方は首席コンマス不在を感じさせない快演で、シェレンベルガー流の分厚い中にも瞬発力のある瑞々しいサウンドをホール一杯に響かせた。パガニーニに比べるとロッシーニのほうがオーケストレーションが優れているという面もあるだろう。カーテンコールではシェレンベルガーが近藤コンミスに熱烈なるハグをしていて、今から思えばやはりアクシデントがあったのだろうなと思う。近藤コンミスだけでなく、いきなり第1プルトに座ることになった若手の長坂さんの奮闘も見逃せない。他の弦首席陣も上手くフォローされていたのだろう。本当にいいコンサートでした。
なかなかオペラをじっくり聴く時間は、今はないのだが、 ロッシーニの歌とオーケストラは音楽としてもとても魅力的だ。 また気軽に聴いていこうと思わされたコンサートだった。
2020年に開館する「岡山芸術創造劇場」では、 オーケストラピットに入るのは岡山フィルになるだろう。 この岡山フィルのニューイヤーコンサートの実績の蓄積は、 新劇場で花が開くのではないか。 演奏会形式のハイライト公演でこれだけの演奏が聴けるのだから、 予算と舞台装置を揃えられれぱ素晴らしい舞台になることだろう。
聴衆層も、 この日の客席も8割5分ぐらいは入っていたことを考えると、 充分な聴衆層が形成されつつあるように思う。
だいぶ時間が経ってしまいましたが、その節はありがとうございました。
また嬉しいレビューに感謝です。
また6月にルネスホールで演奏いたしますので、よろしければお越しくださいませ。
今後も精進致します。
よろしくお願い致します。
by 山岸玲音 (2021-05-14 16:36)
>山岸玲音さん
コメントいただきありがとうございます。そしてコメントに気付かず、返事が遅くなりましたことをご容赦ください。
ルネスホールのホームページで確認しましたら、中止とのこと・・・・。もうかれこれ1年半ほどプロの方の歌声を聴いていないです。久しぶりにこの自分の感想記事を読み返して、コロナ禍前の世界が、いかに素晴らしい日常だったかを噛み締めました。
はやくこのような日常が戻ってきますように、という祈りのような気持ちでいます。
by ヒロノミン (2021-06-03 22:25)