ワルター・アウアー meets シュトゥットガルト室内管弦楽団 岡山公演 [コンサート感想]
ワルター・アウアー meets シュトゥットガルト室内管弦楽団 岡山公演
モーツァルト/セレナード第13番ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
プロコフィエフ/フルート・ソナタニ長調
~ 休 憩 ~
バーバー/弦楽のためのアダージョ
チャイコフスキー/弦楽セレナードハ長調
7月以来、水害や台風に苦しめられた岡山。9月以降も台風が続々と通過し、 昨日も台風25号が接近中ということで、客足は鈍く、 観客は800人~900人(5割弱の入り)といったところ。 開演15分前に到着しても、 ホール地下の自転車置き場に空きがまだまだありましたからね。 もっとも、こんな強風の日に自転車で来る私のような者の方が奇特なのだろうが。
JRが止まるのを危惧してこれなかった人も多かっただろう。10月には入ってまで水害に遭うというのは本当にこれ以上は勘弁してもらいたい。
シュトゥットガルト室内管弦楽団と言えば、 往年のクラシック音楽リスナーにはカール・ ミュンヒンガーとの録音が思い出されるところ。 今回は指揮者無しで弦楽合奏のみの演奏だった。しかし。 モダン楽器による豊かな響きで勝負するスタイルは健在だった。
まず、フルートのソロ。プロコフィエフのソナタの弦楽合奏版でソロを取るのは、ウィーン・フィルのソロ・フルート奏者である、ワルター・アウアーさん。ここ数か月ほど忙しくて、今回もシュトゥットガルト室内管のネームバリューでチケットを買ったので、当日、配られたプログラムを見て『へー、ウィーン・フィルの首席なんだ』ぐらいの認識だったが、アウアーさんが姿を現してから「あっ」と声が出そうになった。2年前の京響5月定期で聴いた、モーツァルトのフルート協奏曲での演奏を思いだしたからだ。あの見事なフルートがこれから聴けるのか!という高揚感が一気にこみあげて来る。
当時の自分のブログには、こんなことを書いている。
『去年、同じくウィーンフィル首席のカール・ハインツ・シュッツの柔らかくニュアンスたっぷりのソロを聴きましたが、アウアーさんはそれに輪をかけて精妙でまさに天衣無縫、息を直接吹き掛けて出す音なのに、なぜあんなに透き通った音が出るんでしょう。』
精妙で天衣無縫、驚異的な透明感、というのは当時の感想と共通するのだけれど、今回は前回以上に心が揺さぶられた。今回聴いた印象は、アウアーさんのフルートは、舞台上に地上の極楽浄土「パラディース アウフ エールデン」を現出しているかのようだ。精妙・透明感とかいう言葉では言い表せない、この幸福はなんなんだろう。
京都コンサートホールで聴いた音よりも、 いっそう艶やかで深みがあり、音の芯がはっきり聴こえて来る。 岡山シンフォニーホールの音響は、竣工26年目にして、 今が最上の音が響いていると思う。 こんなにも美しいフルートの音が絶妙の豊かな残響ホールに響き渡 る。これを極楽!と言わずして何という。
プロコフィエフの曲は、スラヴの民俗音楽を感じさせる曲調や独特のリズムがある一方で、感情に任せるような場面がほとんど無くて無機的な和声が続く、というのが特徴だと思ってていたが、プロコの曲を聴いてこんなに幸福感が感じられるとは・・・。アウアーさんに付けたオーケストラの柔らかい伴奏も素晴らしかった。
オーケストラの編成は、1stVn:5→2ndVn:4→Va4→Vc3、 VcとVaの間の後方にCbが1本、という弦楽アンサンブル。こんな小規模の編成なのに、 この芳醇で力強い豊かな響きはなんなんだ!? 響きの豊かさは、倍のサイズの8型のオーケストラにも匹敵するのではないか? と思う。 特にコントラバスが1本しか居ないなんて信じられない豊かな低音 が感じられる。
ダイナミクスは鮮やかにも関わらず、 ピリオド系の合奏団とはちがって、角が丸くまろやかで気品に溢れている。そして、その音の強弱に込められた情景の表現が本当に凄い。 pやppは単に音が小さい・弱いじゃなく、 悲しみだったりむなしさだったり、 美しいものに出会った時の静かな喜びだったり、 例えばバーバーの弦楽のための 深い深い悲しみに心が揺さぶられるし、チャイコフスキーの弦楽セレナードの緩徐部分はため息が出るほど美しかった。
コンサートミストレスの方がアイコンタクトや体の動きで全体のタイミングを合わせていくのだが、基本的にはお互いのパートを聴き合っていて、阿吽の呼吸で合ってしまう。コンミスさんが前に出れば音が凝集し、後ろへ下がればふわっと響きが拡がっていくのが興味深かった。
なお、ソリストアンコール(前半)と、オーケストラアンコール(後半)は次のとおり。
今回の主催は岡山シンフォニーホール直営だったようで、安定した運営で安心した。台風が接近しているので、緊急避難情報の『キンコンカンコンキーン』というチャイムがあちこちで鳴ったらどうしよう・・・という危惧があったが、携帯電源OFFのプラカードを持ったレセプショニストたちが控えめにかつ徹底した周知のおかげか、そういう事故は無かった。聴衆が少ないのは残念だったが、私が(勝手に)特等席と思っている席の周りにはほとんど人がおらず、ゆったりと聴くことが出来た。
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