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アークティック・フィルハーモニー管弦楽団 岡山公演 [コンサート感想]

アークティック・フィルハーモニー管弦楽団 岡山公演


オルセン/アースガルズの騎行

グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調(*)

 ~ 休 憩 ~

チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」


指揮:クリスチャン・リンドバーグ

ピアノ独奏:ペーター・ヤブロンスキー(*)


2017年10月19日 岡山シンフォニーホール
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 プログラムのメインはチャイコフスキーの『悲愴』交響曲。
 これが僕が経験した中で、最もハイペースな『悲愴』でした。第1楽章が特に早く、テンポが早いだけでなく、通常パウゼを取る部分もほとんど間をおかずにサクサク進んでいく。あっという間に駆けていった印象。
 だからといってあっさりとした演奏だったわけではありません。リンドバーグの躍動的なタクトに導かれ、通常のテンポであれば見えなかった、次々に受け渡されるモチーフの展開の妙味や、ロシア音楽特有のリズム感が引き出され、なかなか得難い経験でした。


 細かい感想は後日更新します。

 それにしても若い、躍動的なオーケストラですね~。燕尾服ではなくスーツにネクタイ姿。楽団員さんの皆さんも人懐っこくて、出来立てほやほやのオーケストラであることを逆手にとって、新感覚のオーケストラという印象です。紹介動画も最高にイケてます。



 このオーケストラは 2009年にノルウェー政府によって設立。北極圏の都市全般を拠点に活動しているとのこと。ホームページを見るとフルサイズのコンサートオーケストラから室内管弦楽団、オペラまでフルラインナップの活動を行っている。
 オーケストラ全体の実力は、首席奏者はヨーロッパの一流どころに比べると、今一歩な印象が残ったが、管の2番手以降やトゥッティ奏者にいい奏者が多く、オーケストラ全体のレベルとしてはかなりのレベルだと思います。
 世界的にオーケストラの経営危機が言われ、実際に淘汰される時代に、新たに出来たオーケストラに一挙に優秀な奏者が集まって出来た。そんな印象を受けます。


 1曲目のオルセンの曲は 大河ドラマのテーマ音楽メドレーのような大変耳になじみやすい曲で、リンドバーグのスポーティーなタクトによく反応して、なかなかの熱演でした。それにしてもよく鳴ります。岡山フィルが最近とみに、よく鳴るようになった印象だが、さすがにここまでは鳴らないですねぇ。管楽器が特にパワフル。


 楽器の配置は10型2管編成。1stVn10→2ndVn7→Va6→VC6、上手奥にコントラバスが5本。管楽器がパワフルなだけに、バランス的にはヴァイオリン・ヴィオラがもう2本づつ欲しいところ。


 2曲目のグリーグのコンチェルト。細かい部分までアクセントを入れて土俗的な風合いを出すオーケストラに呼応して、ヤブロンスキーもアクセントを強めに演奏。一方で、繊細な部分は粒が綺麗に立っていて息をのむほどに美しい。 第3楽章のオーケストラが大音量で奏でられる部分も、まったく音量で負けていないのは、さすが。スウェーデン生まれの彼にとっては、この曲などは何十回と弾いているだろう。安定した演奏の中に聴かせどころがちりばめられていました。あまりにもスムーズに演奏してしまうので、正直、「この人の潜在能力はまだまだ底が深いんだろうな」という印象が残ったのも正直な感想。


 アンコールに演奏されたドビュシーの前奏曲から「花火」、これが匂い立つようなニュアンスたっぷりで、抜群によかった。次回はショスタコーヴィチの協奏曲やラフマニノフの3番あたりを聴いてみたい。


 メインのチャイコフスキーの『悲愴』交響曲。この曲に持っているイメージを完全にリセットさせられる演奏に最初は戸惑った。とにかくテンポが速い、陰鬱なメロディーも「ことさら暗く演奏するのは趣味が合わない」とばかり、流してしまう。第1楽章の途中から「先入観を取り去って聴かないと楽しめない」と思い、ただ、心を開き、体に沁み込んで来る音楽そのものを感じるように聴いた。
 すると、チャイコフスキーの緻密に計算された設計が透けて見えるようで、そして何よりすべての瞬間がはかない「美しさ」に溢れている。第1楽章終結部から第2楽章にかけての、爽快な美しさは生命肯定的なもので、「この曲に、こんな一面があったのか」と驚きながら聴いていた。このリンドバーグの解釈には賛否両論あるだろうが、僕の結論はこれはこれで「アリ」だ。

 オーケストラは細かいミスを気にすることなく、黒い衣装で登場した前半とは違う、紫の衣装を着たリンドバーグの(休憩前後で『お色直し』をする指揮者を初めて見ました、エンターテイナーやなあ)飛び跳ねるような指揮に呼応して、第3楽章では体操の集団演技を見ているような、スポーティーな演奏となった。ティンパニ・バスドラムを舞台奥ではなく、上手の前よりに配置していることもあって、打ち込みがクリアに聴こえてくる。

 第4楽章へはアタッカで繋げたが、この楽章もことさらに悲劇的に演奏しない。それだけに曲想の美しさが
感じられる演奏になった。
 ストリングスにヨーロッパのオケ独特のコクや、北欧オケ独特の透明感といった大きな特徴が無いのが、少し
物足りなかったが、まだ創立8年ということを考えると、今後の課題ということになるだろうか。

 ともあれ、岡山でこのレベルのオーケストラの演奏は、目下年に1,2回ぐらいしか聴く機会が無いわけで、
そういう意味では次回の来岡が楽しみなオーケストラです。


 アンコールにステンハンマルのカンタータ「歌」の間奏曲を持ってくるあたりは抜群のセンス。もう1曲は
リンドバーグがトロンボーンの妙技を見せたチャールダッシュ。会場は大いに盛り上がった。

 お客さんの入りは・・・うーむ、甘めに見積もって6割ぐらいでしょうか。市内の高校生も招待した様子でした。

 海外のオーケストラの公演といえば、長らく事務所売り出し中の若手の奏者がセットになって付いてくる場合が多く、ソリストの実力・経験に比してオーケストラが性能をもて余しているようなものが多かったが、最近は実力も実績もあるソリストをつけることが多いように思う。若手奏者にもチャンスは必要だが、彼らの履歴書に「名門○○フィルと共演し、好評を博した」の一文を付け加えるために、我々が高いチケット代を払わされる理由はないのですから。


 今回のツアー全体の招聘元はプロ・アルテ・ムジケ。これまで光籃社が担ってきた部分を同社が穴を埋めてくれているようだが、今年5月のタンペレ・フィルといい、いいオーケストラとソリストをつけて魅力的なプログラムを引っ提げてきている。この事務所の招聘事業は信用して積極的に足を運ぼうと思った次第。


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 ロビーではノルウェーにちなんだミニ絵画作品展が行われていた。5月のタンペレ・フィルの公演時にはミニ「ムーミン展」があったり、色々な工夫がありますね。

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あーと屋

ヒロノミンさん、こんにちは。あーと屋です。
アークティックフィル、とても気になっておりましたので、演奏評を拝見して、やはり聞いておきたかったなと思っております。

さて、エリシュカの見納めをで大阪フィル金曜日定期のチケットを買ったので、センチュリーの公演を土曜に振り替えてもらいました。ヒロノミンさんもいらしゃいますか?会場でご挨拶できると良いのですが。

あーと屋
by あーと屋 (2017-10-20 01:46) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 コメントありがとうございます。
 センチュリーの土曜日公演、行くつもりにはしていますが、諸事情ありまして…当日にならないと決められない状況です。ついでに、今日のエリシュカ&大フィルもチャンスがあれば…と思っていますが、これもまだ決めていません。
 連絡手段があればいいのですが、twitterのアカウントをお持ちでしたら、DMを誰からでも受け取れるように設定しますので、「hironominV」あてにご送付いただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。
by ヒロノミン (2017-10-20 08:33) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 追記です。本日は岡山から出られない状況になりましたので、エリシュカ&大フィルは諦めました。マエストロとの最後の時間を楽しんでください!
 こんな感じで明日も直前までどうなるか分りませんので、待ち合わせは難しい感じです。
by ヒロノミン (2017-10-20 14:45) 

あーと屋

ヒロノミンVさん

では、ヒロノミンVさん抜きでエリシュカと大フィル最後の演奏を聴いてまいります(笑)。昨日の初日では、早くも別れを惜しむ熱烈な拍手と多くのブラボーに満ちた、暖かい演奏会でした。きっと今日はお別れを惜しみながらも、昨日以上に 熱気に 満ちた演奏会になりそうです。あっと、そうだ、仕事終わったら、まずは昨日の演奏会の記事を私もブログにアップしなきゃ。

残念ながら、Twitterも含めSNSからは距離を置いた生活をしております。そこで、もし明日の日本センチュリー定期にいらっしゃる場合は、次のようにいたしませんか。

演奏会開始直前に、私がこのコメント欄に、私を直ぐに認識いただける事柄(赤ハッピを着ている、 など)と場所を書き込む。
休憩になったら、その場所でヒロノミンVさんをお待ちしている。
お会いしたら、まずはさっと場所を変えてからご挨拶。

いかがでしょう?
by あーと屋 (2017-10-20 16:42) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 了解しました。私の方は、開演前までにコンサートに行けるかどうか、このコメント欄に書き込むようにしますね。
by ヒロノミン (2017-10-20 17:45) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 本日のセンチュリーも断念せざるを得なくなりました。あああ・・・エリシュカに続いて、イブラギモヴァのブラームスを聞き逃してしまった・・・。
 あーと屋さんは、存分に楽しんできてください!
by ヒロノミン (2017-10-21 08:55) 

あーと屋

あゝ、それは全く残念です。ではでは、お会いするもまたの機会にいたしましょう。
by あーと屋 (2017-10-21 10:08) 

ぐすたふ

いやあ、面白いPVを見せていただきました。

シンフォニーホールの公演、どれだけお客が入ったのか。私もパスしてしまいました。行けばよかった。いけたのに。

若いオーケストラ、いいですね。
by ぐすたふ (2017-10-30 12:40) 

ヒロノミン

>ぐすたふさん
 この秋の関西はウィーン・フィルにルツェルンやボストン響やら著名オーケストラが目白押しで、知名度の薄いこのアークティック・フィルあたりは埋没してしまいそうですね。
 やはり新しくできたオーケストラということで意欲的でサービス精神が旺盛な雰囲気を大いに堪能しました。
 次回の来日も楽しみにしたいオーケストラです。

by ヒロノミン (2017-11-01 18:43) 

あーと屋

大変ご無沙汰しております。あーと屋です。
さて、いよいよ今週末は京響と大阪フィルの2月定期ですね。以前お聞きしていた通り週末は京都と大阪でしょうか? やっとお会いできる時が、と思っていたのですが、ヒロノミンさんは金曜日京都コンサートホール、土曜日フェスですよね。となると、私は金曜日にフェスで大阪フィルの初日を聴いて、週末は福山に戻る予定ですので、どうやら今回もダメそうですね。
by あーと屋 (2018-02-12 12:11) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 コメントありがとうございます。ブログ拝見しましたが、お忙しそうですね。。。
 今週末、毎度のごとく(笑)行けるかどうか解りませんが、金曜日の京響はチケットを購入しておりますので、フェスの方に行くことは無いと思います。土曜日はフェスに行ければ、とは思っていますが、残席僅少のようで、当日券が出ないようならパスします。
 日曜日は出勤日で広響にはいく予定にしていません(あと、京響とプログラムが被るんですよね・・・)。まことに残念ではありますが次回の機会に期待したいところです。
 4月以降は仕事のシフトが替わり、関西遠征は難しくなりそうですが、その分岡山・倉敷・福山・高松を網羅的に聴きに行くつもりです。週末にこちらのコンサートに来られるようでしたらまた、コメントいただければと思います。
by ヒロノミン (2018-02-12 22:34) 

あーと屋

ヒロノミンさん
京響、いかがでしたでしたでしょうか。フェスのローマ三部作は、特に祭りが圧巻でした。バッディストー二、凄い才能です。今日は若干の空席があったようでした。可能であれば是非明日、聴きになられるといいのですが。
京響の演奏の感想記事、楽しみにしております。
by あーと屋 (2018-02-16 21:12) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 コメントありがとうございます。
 実は、昨日から熱発で京都に行くのを断念しました。バッティストーニ、やはり凄い才人だったんですね。NHKのらららクラシックで東京フィルを指揮している演奏を見て「これはタダモノではないぞ!」と思っていました。今回は見ることがかなわなかったですが、今後、楽しみにしたい指揮者ですね。
by ヒロノミン (2018-02-17 14:28) 

あーと屋

寒暖差の激しい時期ですものね。お大事なさってください。もし、奇跡的に体調が戻ったら明日、リーデンローズでシベ2のリベンジを----は、流石に無茶ですね。
by あーと屋 (2018-02-17 16:40) 

ヒロノミン

>あーと屋さん
 暖かいお言葉、ありがとうございます。
 私の方は日曜日に稼ぐ商売なもので、明日までに治さないとピンチです(笑)
 明日の広響も行かれるようなら、そちらの感想を楽しみにしています。

by ヒロノミン (2018-02-17 18:46) 

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