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岡山フィル第54回定期演奏会 シェレンベルガー指揮 Vn独奏:青木尚佳 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第54回定期演奏会


ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調

ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調

 ~ 休 憩 ~

ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調


指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー

Vn独奏:青木尚佳

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 オーケストラも指揮者も『完全燃焼』したコンサートではなかったでしょうか。「もう1曲やれ」と言われても、もう絶対に無理・・・それほど燃焼度の高いコンサート。世界最高の世界を知る男が、手足となる相棒(新首席コンサートマスター)を得て、プロの奏者が本気で燃えた演奏会、岡山でしか聞けない、だからこそ僕にとって意味のあるコンサートでした。今日の会場を共にした聴衆も同じ思いではないだろうか。


  今回の一番の注目は、楽団史上初の「首席コンサートマスター」の就任。新コンサートマスターにドイツの南ヴェストファーレン州立フィルハーモニーのコンマスを38年間勤めた、岡山出身の高畑壮平さんが就任した。
 この人事には正直驚いた。2年前のJホールでの「高畑壮平と岡フィルのなかまたち」コンサートの時に、シェレンベルガーと岡山フィルに対する好意的な印象を語ってくださったときに、心の中で『この方が首席客演でもいいからコンサートマスターに来てくださったら』と思っていたが、まさかの常任ポストへの就任。驚天動地です。
 南ヴェストファーレン・フィルは、来日回数が少ないため、岡山の人には知名度は低いかもしれないですが、ルール工業地帯を抱えるノルトライン・ヴェストファーレン州の州立のオーケストラで、12型3管編成(約70人)規模の堂々たる常設オーケストラ。常任指揮者は日本でも人気のあるチャールズ・オリビエ=モンローといえば東京・関西のファンはピンとくるだろう。
 そのオーケストラのコンサートマスターが、故郷とはいえ非常設で発展途上の岡山フィルに来てくださるなんて、思ってもみなかった。

 シェレンベルガーの首席指揮者就任とともに、この高畑さんの首席コンマス就任。。。岡山で信じられないことが起きている。

 開演に先立って、その高畑新コンマスら5名の団員によるプレコンサートがあった。イタリアのバロック時代の作曲家:サンマルティーニの「弦楽合奏のためのシンフォニア」という曲。僕は初めて聞いたが、華やかで躍動感があって、すごくセンスのいい選曲です。


 開演15分前からは、高次事務局長の紹介で、シェレンベルガーさんと高畑さんのお二人によるプレ・トーク。
 シェレンベルガーさんのお話を高畑さんがドイツ語に翻訳、これでシェレンベルガーさんもオーケストラとの
コミュニケーションは格段に取りやすくなったと思う。お二人の信頼関係はすでに充分に醸成されていることがよく伝わってきた。


 1曲目のベートーヴェン/交響曲第2番。演奏が始まって、高畑コンマスの効果はすぐにわかった。これまでの定期演奏会からも、アンサンブル能力がみるみる向上している岡山フィルだが、ここへきて2段ほど上のレベルのオーケストラになったように感じた。
 そして、シェレンベルガーがいつもにも増して、オーケストラの要求レベルを上げているのがよく分かった。激しすぎるチェロバスの刻みや、第1・4楽章の随所でのベートーヴェンの感情が乗り移ったようなスフォルツァンドでは、シェレンベルガーのタクトに俊敏に、そして激しく反応し、その迫力に客席で思わずのけ反りそうになる、そして各楽器間の対話が極めて緊密で、アンサンブルの骨格ががっしりとしていること。


 家人とも話をしたのが、旋律の最後の部分やアクセントがかかる部分が「ドイツ語」的で、例えば母音のアクセントの強さや、英語のような曖昧な発語がないく一文字一文字が独立して発音される感じ、とか、子音のウムラート発音などの要素が、演奏される音楽のそこかしこに感じられ、それが演奏全体に骨太でかっちりとした印象を与えている。第4楽章の冒頭の演奏なんて、完全にドイツのオーケストラの節回しだった。

 シェレンベルガーと相性も良かった戸澤さんが客演コンマスの時の切れ味の鋭い演奏も良かったけれど、「外見は日本人ですが中身はほとんどドイツ人なんです」と語る高畑さんとシェレンベルガーは、ベートーヴェン解釈において、より気脈を通じるところがあるのだろう。ドイツ語の持つ言葉のテンポや発音が音楽の中に内包されて、それがより説得力を増していた。この音楽づくりにおいて高畑コンマスの果たした役割は非常に大きかったんじゃないだろうか。

 もちろん、岡フィルの健闘も素晴らしかったのだ。第1楽章の最後の一音がホールの残響として響き渡ったとき、「これぞ、ベートーヴェンの音」と思う素晴らしい響きだったし、第2楽章の弦楽器の美しさにも魅了された。
 一点、難点を言わせていただくと、以前から指摘している通り、やはり弦楽器奏者の中に何人かピッチを合わせきれない方がいて、この曲中何回か、その馬脚が見える局面があり、聴く方も一瞬、興がそがれてしまう。これだけオーケストラの演奏レベルが上がってくると、今まではわからなかった部分も見えてきてしまう。


 2曲目はブルッフのヴァイオリン協奏曲。「超新星の登場!」を実感した。
 青木尚佳さん、ロン=ティボー2位入賞の際は少し話題になった記憶があるのですが、今回、初めて聞きました。こりゃー、とんでもないソリストが現れましたですぞ!

 ティンパニと木管に導かれて、切ないメロディーが鳴った瞬間。


 「なんちゅう美しい音、こりゃすげー!!」


 と思いましたよ。音が太くて音圧も満点。高音の抜けの良さも尋常ではないレベル。オーケストラが割と容赦無く鳴っても(これまでの経験上、シェレンベルガーはソロ演奏でもオーケストラを鳴らす場面ではしっかりと
鳴らす印象)、まったく問題にしないパワフルさ。独特の輝きと味わい深さも兼ね備えている。1992年生まれというから、現在25歳?うそでしょ?20代の若手のソリストが、これほど堂々たる演奏と、テクニックだけではなく奏でる音の味わい深さは、心を惹きつけてやまない。
 青木さん、このまま演奏経験を積み重ねていけば、間違いなく世界の最前線で活躍するヴァイオリニストになる。そう確信した演奏でした。


 岡山フィルの伴奏も良かった。第2楽章の青木さんのこれ以上ない甘美なメロディーにつける、さざ波のようなストリングスの音を聴きながら、「この音はどこに出したって恥ずかしくない、堂々たるわが町のオケの音」と思いながら聴いていました。
 第3楽章では青木さんの圧倒的な存在感に、どんどん挑んて行って、両者の火花の散るような「競奏」はわが町のオーケストラながら天っ晴れな演奏でした。オーケストラがよくなれば、ソリストのソロも引き立つ。岡山に居たって世界レベルの芸術世界は体験できる。


 青木尚佳さん、もうすっかりファンになってしまいましたですよ。地元に来たら必ず足を運ぼう、なんなら関西・広島でも時間と交通費払ってでも聴きに行きたい。次はブラームスのコンチェルトあたりを聴いてみたいですね。 

 アンコールは、山田耕作の「この道」



 後半が始まるころには1時間25分が経過。今年1月の定期もそうでしたがシェレンベルガーの組むプログラムはいつもボリューム満点。17時で終演することの方が少ないです(笑)。楽団員はクタクタになるんじゃないかと思いきや、第1ヴァイオリンの近藤さん、入江さん、上月さんらの設立当初からのメンバーのお顔には充実感が漲っています。
 この日の各パートの首席にも、他楽団からのエキストラの方がいらっしゃってました。今回は、コントラバスに黒川さん、フルートに中川さん、ファゴットに中野さん、となぜか京響色の強い助っ人メンバー(笑)広上&京響の快進撃の立役者の皆さんも、この日の岡山フィルのパート間のコミュニケーションが饒舌で、骨太な一体感のある演奏を評価してくださるのではないだろうか。他の助っ人の皆さんも含めて、本当に献身的に演奏してくださった。
 これまでは「コンマス+首席奏者の殆どが他楽団のエキストラ」という編成に、シェレンベルガーも遠慮して(あるいはチャレンジがしにくい足枷をはめられて)いたんだなあ、と思います。

 もう一つ大きな変化を感じたのは、ダイナミクスの振幅が、今までは7段階ぐらいだったのが、再弱音が+2段階、最強音一歩手前に+1段階ぐらい加わった感じ。第1楽章の8ビートのリズムとバランスを保ったまま、
再弱音に落として巧みにギアチェンジをしながら盛り上がっていく場面は鳥肌が立ちました。この曲もドイツ語的な節回しは健在。交響曲第1番では一部奏者のピッチのズレが気になったヴァイオリンも、よく弾き込まれているのかこの曲では感じません。


 第1楽章の提示部の繰り返しは無し、第4楽章で一か所、「あれっ?」と思う箇所があって、CDや生演奏で親しんでいたものとは違う楽譜かも。
 第2楽章は木簡陣のソロが見事、ここれもダイナミクスを広く取った劇的な表現が印象ん残ります。第3楽章は新コンマス体制の強みがいかんなく発揮。コミュニケーション量が豊富で、前半の第1番の第3楽章でも見せたのですが、ちょっと間を置いて、各パートが対話をしているような生き生きした表現が印象的。
 この日のコンサート、ここまでが非常にハイカロリーかつ異常な集中力連続だったので、「最後まで持つかな?」と心配したのもつかの間、シェレンベルガーのタクトの勢いは一層熱を帯びていきます。これほど激しいタクト捌きを見せたのは、東日本大震災被災者鎮魂のためのドイツ・レクイエム以来です。


 曲の中盤でも間を多用し、さながら「だるまさんが転んだ」を思い起こします。この曲、こんなにハイドン的な面白い仕掛けがあったんや、という発見あり。岡フィルも完全についていきます。
 終盤は少しづつ少しづつテンポも上げていっても全パートふるい落とされることはありません。シェレンベルガーも楽団員も高畑コンマスを信頼しているのが解ります。本当にいいオーケストラになったと思った大団円でした。

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 お客さんの入りは7割ぐらい?プログラムからすると満席になってもいい筈なんだけれど、これには理由がある。今週は「おかやま国際音楽祭」の開催中で、同じ日に「マーチング・イン・オカヤマ」が開催されており、岡山市内の吹奏楽関係者の多くはこちらに参加している。高校のブラバンの顧問をしている私の友人も「音楽祭かなんか知らんけど、音楽人口の少ないこの街で、イベントをかぶせるなんて愚の骨頂!」と、かなりお怒りだった。こんなにいい演奏をしているのに、いつも聞きに来ている方が来られないというのは、何のための音楽祭だろう?という疑問は消えない。昨年みたいに日程をずらしてほしかった。

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南海 凡吉

いつも小生のブログへの訪問、ありがとございます。
岡フィルのアンサンブルが良くなり、良い演奏でしたので、ひょっとして小生がひいき耳(?)になったのかとも思いましたが、ヒロノミンさんも高評価で、安心しました。岡山で良い演奏が聴けるのは、嬉しい限りです。
by 南海 凡吉 (2017-10-10 22:54) 

ヒロノミン

>南海凡吉さん
 こちらこそ、ご訪問ありがとうございます。
 私は岡山フィルに関しては自他ともに認める(?)、ひいき耳ですので、南海凡吉さんのブログでの「アンサンブルが良くなった」との記述に、僕の方が安心させられています。
 でも、じっさい、どんどん良くなっていますよね!岡山フィルは。
 第九もあと2か月になりましたね。前回、聴いた限りの素人感想ですが、シェレンベルガーの第九は一筋縄ではいかなさそうな印象を持ちました。お体、ご自愛頂いて、ご活躍を楽しみにしています。
by ヒロノミン (2017-10-10 23:21) 

mikotomochi58

いつもお世話になっております。このコンサート、ほんとによかったですね。私にとっての前回のブラームスも、小菅さんを聴きに行くのが目的だったんですが、どうしてどうして。これほどオケの演奏がいいとは。まあ欲をいえばきりがありませんし、それはそれでおいといて、これまでのを聴き逃したのが実に残念。次回も仕事の絡みで行けるか…。万難を排していきたいものであります。当日は、プレトークもあったのですね。やはり、早めに行くに限りますね。青木尚佳さんも実にステキでした。またご教示ください。
by mikotomochi58 (2017-10-12 22:04) 

ヒロノミン

>mikotomochi58さん
 こちらにもコメントありがとうございます。
 私も3月の定期演奏会は仕事で行けないことが確定しているのですが、12月の第九と1月の特別演奏会は聴きに行くつもりです。ドイツ式のかっちりとした演奏を聴くために、以前は大阪まで大フィルを聴きに行っていましたが、もう岡フィルでも充分だと思うようになっています。
 岡山フィルはシェレンベルガーが振った定期演奏会について、YouTubeへ動画をアップしています。音質はよくないですが(天吊りマイクのみなので、打楽器の音などを拾いすぎる感じです)、鑑賞には耐えうる音源だと思います。ベートーヴェンの6番/5番のリンクを参考に貼っておきますね。
https://youtu.be/J25hkgy_NYk?t=22s

by ヒロノミン (2017-10-14 00:33) 

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