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岡山フィル第51回定期演奏会 指揮:シェレンベルガー Vc:ウェンシン・ヤン Vn:松山冴花 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団 第51回定期演奏会
ニューイヤーコンサート

チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
   〃    /ロココ風の主題による変奏曲イ長調
 ~ 休 憩 ~
ヨハン・シュトラウス/喜歌劇「こうもり」序曲
サン=サーンス/序奏とロンド・カプリツィオーソ
リヒャルト・シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲

指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
チェロ独奏:ウェンシン・ヤン
ヴァイオリン独奏:松山冴花
ゲストコンサートマスター:戸澤哲夫
2017年1月15日 岡山シンフォニーホール
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 本当に夢のような2時間15分でした。特に後半の「こうもり」序曲が始まった最初の数小説。オーストリアかドイツのオーケストラか、というような分厚いながらも味わい深い音が聴こえて来てビックリしました。それは「ばらの騎士」組曲で、目くるめく美音の洪水!「すごいすごい」「岡山フィルからこんな音が出て来るとは!」という驚きから、独墺圏のオーケストラが発する「弦の鳴き」が聴こえて来て、これは岡山フィル史上、エポックメイキングな音楽を聴いている、との実感で感極まってしまいました。ただ純粋に「音」で感極まったのは、2年前に聴いたオッコ・カム&京響のニールセン4番以来の出来事です。

 2曲の協奏曲も良かった!(っていうか、事務局さん、お金は大丈夫だったのかしら)。超一級のソリストが2人も登場するなんて本当に豪華にもほどがあります。
 特に松山さん、僕は松山さんの地元の兵庫芸術文化センターが開館した頃に初めて聴いて以来、4回目なのですが、本当に素晴らしいヴァイオリニストです。同世代には庄司紗耶香や神尾真由子らなど、ビッグネームが沢山居ますが、僕は松山さんのヴァイオリンの独特の音は、そんな黄金世代の中にあっても自ら燦然と光を放つ「恒星」のような存在です。

 一方で、岡山フィルの演奏が急速にレベルアップしていく中で、少し課題のようなものも感じられた演奏会でもありました。

 なんと、コンサートの5日後には、早くも動画がアップされています。これは凄い事ですよ。日本国内のオーケストラで、コンサートの様子をほぼ毎回フォローアップできるのは、N響・読売日響・BSの番組を持っている関西フィルぐらいのものでしょう。

 動画がアップされたことで、演奏の様子を伝えるという役目は失われたので、ゆっくり自分の反芻のためだけにブログを更新できました。

 西日本でも広島・京都などは積雪の被害に遭ったところが多かった日曜日。しかしさすがは「晴れの国 岡山」、上の写真の通り天気は晴れでした。ただし気温は日中も3℃の極寒。
 そんな中でもよく入った方だと思います、客席は80%ぐらいの入り。そして、今日の演奏を聴いた人は、「次回も聴きたい!」と思ったに違いなく、シェレンベルガーが首席指揮者就任以来の「正のスパイラル」の上昇気流はまだまだ続きます。

 この日の編成は変則12型の通常配置(チェロがアウト)3管編成。1Vn:12→2Vn:12→Va:8→Vc:6で、上手後方にCb:6という、低音補強型でした。
 まず、チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」。クラシックを聴き始めたころは、カセットテープが擦り切れるほど(齢がバレる…)聴いた懐かしい曲。

 シェレンベルガーが振る岡山フィルの音、やっぱり凄いです。もう慣れてもいいはずなんですが(笑)、弦の厚みのある音はもはや「岡フィル・サウンド」の名刺と言ったところでしょうか。しかし、何度聞いても驚くということは、岡フィルの弦はどんどんレヴェル・アップしていっている、ということだろうと思います。

 曲の冒頭のモチーフは、この曲の「運命の動機」といえる旋律。シェレンベルガーが聴衆に「この旋律を覚えておいてくださいね」と言わんばかりに緊張感を持って非常に丁寧に描いていくのが印象的。この旋律は曲の後半、トランペットで強烈な存在感で再現される。これ以外にも、この曲のカギを握る3つのモチーフの錯綜を対位法の幾何学的な美しさをきっちりと演奏して浮かび上がらせつつ、巧みに描き分ける手腕は流石にシェレンベルガー&岡フィルのコンビ。
 一方で、岡山フィルのレベルアップが著しいゆえの課題も…

  ロメオとジュリエットの逢引を思わせる、美(微)弱音の蜃気楼のように美しいメロディーを奏でるヴァイオリン群。一部の奏者の音が不安定で、統一した質感が保てない。音の質感に雑味が混ざるのがわかる。前方プルトやベテランの奏者を中心に、大部分の奏者がシェレンベルガーの求める極限の美を表現しているのですが、やはり何人かその質感の音を出すことが出来ておらず、それが全体の音楽に「雑味」を生じさせて、効果を半減させている。
 一方で、若手の奏者の方々の中にも、本当にハイレベルな奏者の方もいるのですが…今後もシェレンベルガーの要求のレベルはどんどん上がるでしょう。ついて行ける奏者は一緒にレベルアップしていけるが、ついていけない奏者はどうなるのか…やや心配なところです。

  次いて「ロココ風の主題による変奏曲」。穏やかで上品な雰囲気のこの曲ですが実は(たぶん)曲者で、かなりのハイレベルな技巧が要求される。
 ソリストのウェン=シン・ヤンさん、僕は勝手に若手のチェリストだと思っていたのですが、登場した姿を拝見すると、若手というよりも渋さを感じさせるダンディな雰囲気の方でした。プログラムを見ると、1965年生まれといいますから、51歳ということになります。演奏を聴いて、こんな凄いチェリストを今まで知らなかったことを恥ずかしく思いました。

 必要以上に情感を込めることはせず、むしろシャープな音楽づくり、それでいて音はフレッシュで瑞々しい。この曲は、超絶技巧のオンパレードですが、それを淡々と弾く姿は本当に恰好がいい。岡山フィルの伴奏も、かなり難しそうなこの曲を、よくソリストに付けていたと思います。一方で、ヤンさんが仕掛けて行くような様子があっても、それに応える余裕までは、無いのかな。これも今後の課題でしょうね。
 ソリストアンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番からプレリュード。

 オーケストラのアンサンブルの面でこの日一番の出来だったのは、「こうもり」序曲。ニューイヤーコンサートで毎回のように取り上げられている曲で、奏者も自信をもって演奏できる曲だろうと思う。そこにシェレンベルガーの本場仕込によく対応して、軽快さと重厚さを両立したバランスのいい音楽に仕上がった。岡フィルではかつて聴いたことがないような、「本場感」「本物の聴き応え」のある演奏でした。これだけの演奏ができるのなら、ウィンナー・ワルツ・オーケストラや、ヨハン・シュトラウス管弦楽団といった専門職(?)のオケでなくても岡フィルで十分だ。

 サン=サーンスのロン・カプも慣れたもの。シェレンベルガーは先ほどの「こうもり」とは違う、スペイン趣味のフランス音楽、サン=サーンスの音楽の味わいを見事に表現して聴かせてくれた。松山さんも「ロン・カプの演奏はかくや!」と思わせるに十分な演奏。彼女のキュイーンと伸びのある音は独特、技巧で聴かせるのももちろんの事、ヴァイオリンの音の抜けの良さといつまでも聴いていたくなる美しさは特筆もの。妖艶で情熱的で、何よりも気品にあふれたロン・カプ。あっという間だった。

 ソリストアンコールは、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番からラルゴ。前半のヤンさんがバッハのアンコールだったから、というわけでもないでしょうが、ロン・カプとは全く違った音の引き出しを披露してくれた。

 この日のプログラムは「愛の物語」というテーマでいえば、ロメ・ジュリは純愛、「こうもり」と「ばらの騎士」は不倫や純愛、親からの強制的な婚約など、色んな男女の形が登場する。そういう意味では最後の「ばらの騎士」組曲に向かって、4つのプログラムが収斂していく格好になっている。
 時代背景でいうと、ロマン派時代から中世(シェークスピア)やロココ時代へのオマージュ。後半はウィーンと西ヨーロッパの華やかなロマン派の王道を行く楽曲。最後の「ばらの騎士」組曲でロマン派の最後の落日へと収斂する。

 「ばらの騎士」組曲の演奏。細かい感想を書くときりがないのですが、まず、前半でソリストとして登場したウィン・シンヤンさんがチェロパートに入って弾いている!バイエルン放送交響楽団の元首席奏者が、なんと我らが岡山フィルに混ざって弾いているんです。動画でご確認あれ。
https://youtu.be/Ossh8YZVS6I?t=1h19m14s
 チェロとヴィオラの間に1プルト1人の不自然な奏者が、これがヤンさんです。必死でソリストのオーラを消しているようにも見えます。
 
 そのあとのアンコールでは、なんと後半のプログラムで演奏したばかりのドレスから黒の衣装に着替えた松山さんも参加。
https://youtu.be/Ossh8YZVS6I?t=1h41m36s
 椅子が出てきたあと、シェレンベルガーについてさりげなく登場しています。

 素晴らしい演奏のコンサートの後に、こういうサプライズがあると、ずっと印象に残りますね。「あの、ソリストのヤンさんと松山さんが奏者として登場した定期演奏会」という感じで。本当に嬉しいサプライズでした。

 さて、ばらの騎士組曲です。オーケストラのドラマティックで、起伏のある、かつ澱みのない演奏に、頭がぼーっとしながら、音楽に身を任せていました。シェレンベルガーさんが「音楽は心を開いて感じるもの、日本人には人々はそれができる集中力と謙虚さがある」ということをおっしゃっていた。この日の僕は、まさに心を開いて楽しんでいた。

 たそがれ時に色彩を千変万化させる、夕映えの空のように、ある時代が終わっていく(同時代にのストラヴィンスキーの「春の祭典」のような衝撃的で痙攣的な楽曲が背中をせっついてくる)、だからこそ切ないほどに美しいんです。これだけの巨大編成で難易度の高い曲を演奏するためには、10型2管編成の岡山フィルには、強力なエキストラ陣の助けがないと厳しいのは確か。この日も都響現役&OB主席ホルンの笠松さん・久永さん、N響クラリネットの磯部さんをはじめ、トランペット以外のほぼすべてのパートの首席に助っ人奏者が座った、音楽の骨格は岡山フィルの音だった、と言いたいところだが、この曲を恐らく初めてプログラムに取り上げた岡山フィルメンバーの色は薄く、今回に関しては助っ人奏者のハイレベルな演奏に引っ張ってもらった、というのが本当の所だろう。しかし、助っ人・プロパー、すべての奏者の充実した顔を見ると、今回はこれでいいのだ、とも思う。

 シェレンベルガー首席指揮者体制は5年目に突入。氏の音楽づくりは「こういう音を奏でよう」というイメージが明確で、そのイメージは演奏者に対してだけでなく、聴いてる僕らにも、シェレンベルガーがどういう音楽を理想として目指しているのか、分かるようになってきました。

 ウエン・シン=ヤン、松山冴花も含め、オールスター・キャストの演奏となった、オーケストラ・アンコールのラデツキー行進曲。聴衆の手拍子のポイントまで的確に指示するあたり、シェレンベルガーさんにとって、音楽を演奏することに関する真剣さは、本プログラムもアンコールもない、本当に実直な人だなあ・・・と思います。

 シンフォニーホールのロビーから。岡山芸術交流後もリアム・ギリックのインスタレーションが残されていて、これを鑑賞するには、ここが実は特等席かも知れません。 

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伊閣蝶

「こうもり」や「どろぼうかささぎ」などの名演奏は滅多に聴くことができません。
それゆえに、ヒロノミンVさんの感動が目に浮かぶようです。
日本のオーケストラの実力は素晴らしいものがあることを、恥ずかしながら私は最近痛感している次第ですが、自分の不明は恥じ入るとして、こうした環境にあることをもっと悦ばねばと思います。
足の遠のいていた実演鑑賞、これからは少し本腰を入れたくなりました。
by 伊閣蝶 (2017-01-26 20:23) 

ヒロノミンV

>伊閣蝶さん
 コメント有難うございます。

>「こうもり」や「どろぼうかささぎ」などの名演奏は滅多に聴くことができません。

 確かにそうかもしれませんね。シェレンベルガーの音のイメージが明確にオーケストラに伝えられているようで、本場のオーケストラのような素晴らしい音が出ていました。
 岡山フィルは、まだまだ発展途上のオーケストラですが、近年聞いた読響・新日本フィルやN響、京響・広響あたりになると、2万円以上の大枚をはたいて海外のオーケストラの公演を聴かなくてもよいのでは?と思うほど、満足度の高い演奏を聴かせてくれます。伊閣蝶さんの実演鑑賞の感想、楽しみにしています。 
by ヒロノミンV (2017-01-30 19:19) 

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