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『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その2) [オーケストラ研究]

 最初の記事から時間が経ってしまいましたが、あれから高畑壮平さんのお話からも、シェレンベルガー氏の首席指揮者契約延長を確信。第2弾の提案記事を起こしたいと思います
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(岡山音楽の殿堂、岡山シンフォニーホール)
 第2回は現状の「問題点」を把握するところから始めたいと思いますが、分析するのは僕ではありません。
では、だれか?
 岡山フィルには創立10年目に小泉和裕氏を音楽アドバイザーに迎えていた時期がありました。小泉さんと言えば、都響のイメージが強いかもしれませんが、仙台フィルや日本センチュリー響、九響など、国内の地方オーケストラをことごとくトップレベルに引き上げてきた、屈指のオーケストラビルダーです。
 その小泉和裕氏が山陽新聞のインタビューで応えている内容が、今の現状の岡山フィルの課題そのものであると感じたため、掲載したいと思います。
 


 発足十二年となる岡山フィルハーモニック管弦楽団(岡フィル)が本年度、初めて「音楽アドバイザー」のポストを設置、十年来の親交がある指揮者小泉和裕氏(54)を迎えた。就任記念を兼ねた第二十四回定期演奏会(定演)のため来岡した小泉氏に、抱負を聞いた。

<岡フィルでは、一九九五年の第六回定演に始まり、二年前の創立十周年記念公演を含めて客演指揮者としては最多の計五回タクトを振った。これから二年間、企画立案や演奏指導、人事的アドバイスを通じ、岡フィルの音楽性を高めていく>

小泉:率直に言うと、この楽団は今、岐路に立っている。創設十年が経過したこの時期に、今後どういうオーケストラを目指したいのかを明確にし、音づくりをしっかりしておくかどうかが将来を左右するだろう。音にスタイルがなければ存在にも特徴が出ない。
 とはいえ、その無色なところに逆に可能性を感じる。悪い癖や、技術的に弱いパートがないのは美点で、団員から音楽への純粋な意欲も伝わってくる。定期的に接してきて「助けたい部分がたくさんある」「もっと良くなる」と感じたため、この役を引き受けた。

<小泉氏が早速、着手したのが定演の強化。これまでの年二回から、来年度は五回に増やす。子ども向けコンサートなど 啓蒙 ( けいもう ) 公演も“活動の両輪”だが、楽団の基本である音楽性の向上を披露する定演が少ないのは、致命的との考えからだ>

小泉:今回の定演ではどのオーケストラでも「挑戦」と位置づけているブラームスを取り上げたが、まだ息遣い、音の組み立て方、曲が持っているものへの理解が十分ではない。ほかにハイドン、モーツァルト、ベートーベンなど古典の重要なレパートリーを最初からやり直す。
 その上で、「岡フィルはどんな曲をやっていくのか」を考える。公演回数が増えれば系統立ったプログラムを計画的に組めるようになる。だが、それもメンバーが確立していない現状では容易ではない。

<現在岡フィルの運営は県、岡山市、経済界が担い、予算は年間約五千万円。厳しい台所事情を反映し、四十人の登録団員も月給制ではなく、演奏会ごとに日当で呼ぶという状態にある。結果としてその都度顔ぶれが異なる点を、小泉氏は「最大の弱み」と指摘する>

小泉:これまでの岡フィルは「確かにそこにあるけれど姿がつかめない」という印象だ。これを払しょくするには、メンバーの固定化が急務。スタイルを固めるためだけでなく、どんなコンサートマスターがいて、どんなプレーヤーがいるオケなのか“姿”を人々に見てもらうことが不可欠だからだ。
 結局は、どのオーケストラも抱える財政の問題にぶつかる。だが、音楽は社会、人の心を豊かにするため必要な栄養のようなもの。せっかく本拠地となるホールがあるのだから、良い演奏をつくり上げ、企業や聴衆の理解・援助を求めていきたい。何年もしないと答えは出ないが、後々どの客演指揮者が来ても「とてもいいオーケストラになった」と言われるよう、最善を尽くしたい。

(2004年9月25日 山陽新聞掲載)
 



 岡山フィルの長所・足りない部分、今後どうするべきか?という諸問題に関して、これほど明確なビジョンを持っていた人物(小泉和裕氏)が居たことを岡山フィルのファンは記憶にとどめておくべきでしょう。

 そして、この『小泉音楽アドバイザー』が、なぜ任期が更新されなかったのか?集客が厳しかったのか?小泉氏の要求する体制を整備できなかったのか?などなど、岡山フィル側からファンに十分な説明がなかったことも併せて記憶にとどめるべきです。

 少し(いや、かなり)話は脱線します。 

 もし、私のブログを初期のころ(2006年あたり)からご覧いただいている方がいらっしゃるとしたら、以前の私が岡山フィルに対して、けっこう醒めた目で見ていたことを覚えていらっしゃるかもしれません。
 なぜなら、小泉アドバイザー制にしろ、サントリーホールとの提携にしろ、N響の岡山定期演奏会にしろ、最初だけ華々しく新聞やマスコミに発表するのに、その後どうなったのか?年会費を払っているファンにすら十分な説明が無かった。せめて「諸事情があって止めます」というアナウンスひとつぐらいは欲しかった。

 当時の私の心の中は『なんや、結局ぼくらのことなんか眼中にないんやな。市からもらった補助金の範囲内で出来ることやってればいい。いちいち説明して、うるさいファンから色々難癖つけられたくない、と思うてるんやろ。それやったら応援してやるかい』というのが正直な気持ちだったんですよ。

 シェレンベルガー氏が就任する数年前の岡山フィルは、こんなふうに岡山市民に「根付いていない」どころか、岡山のクラシック・ファンからもそっぽを向かれかけていた。ネット上でやり取りをしていた岡山のクラシックファンの間でも『ああいう姿勢では、おらが街のオーケストラ!という気にはならない』というやり取りをしたことが何度もあった。

 その後、色々な関係者から話を行く機会があって、小泉アドバイザー時代の萩原市政から高谷市政へ移り、緊縮路線になり、県の財政危機とともに橋下徹・維新の大阪府市政もビックリの補助金削減のスパイラルに陥り、楽団運営が窮地に追い込まれていたことも知りました。
 それだったら、苦しい時は『楽団が苦しいんです』と、せめて会費で支えているファンには説明すべきだったんです。

 シェレンベルガーが首席指揮者に就任し、事務局にもアウトリーチや市民との交流事業に経験豊富な方が入ったとのことで、現在の岡山フィルは本当に変わった。
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 その日の演奏者が(立楽団からの助っ人も含めて)必ずプログラムに明記されるようになった。年間プログラムがきちんと発表されるようになった。ホームページが更新されるようになった。書いてて思わず遠い目をしてしまう。ほんの6,7年前までこんな「当たり前」の事が出来ていなかったんですよ。

 それに加えて、facebookなどでリアルタイムの情報がきちんと更新され、見どころ聴きどころの情報が発信されて本番までのワクワク感が演出されるようになった。プログラムの楽曲解説が充実してきた。演奏会の前に色々なメディアでPRしている姿が目につくようになった。特に昨年10月定期の前に世界の至宝ともいえるシェレンベルガー氏が岡山市役所のロビーで定期演奏会のPRをしていた姿は神々しかった。あれだけのキャリアのある音楽家が、ファンのために汗をかいている。今まで岡山フィルが定期演奏会のPRのために、不特定多数の人が集まる様な街角で演奏することはほとんど無かった。それをあのシェレンベルガーがやった。その姿がファンの心を動かし、楽団員を発奮させ、事務局の姿勢を変化させた。
 そして会員をリハーサルへ招待、賛助会員はパーティーでおもてなし、岡山大学でのワンコインコンサートの年間シリーズ(シェレンベルガーも登場する)。そして今年度はついに定期演奏会会員(マイシート)の導入。
 細かいところでは、チケットホルダーにホールの座席表が印刷されるようになったこと。僕はこの取り組みを見た時、「ああ、岡山シンフォニーホールも本当の意味で顧客目線になったのだな」と思いました。しかし、まだまだ努力する余地はある。

 2008年に橋下徹が大阪府知事に就任以降の大フィルは、ホームページやツイッターなどのネットメディアを活用して、①まず市民の税金を使って運営していることに感謝しつつ、②楽団の厳しい経営状態をすべて公開し理解を求め、③市民のより根付いた楽団になるための様々な改革案を示し、④ファンからの忌憚のない意見を求めた。
 大フィルのコンサートでは、プレトークサロンと称した事務局とファンの交流の時間がありますが、経営に関する厳しい質問や意見にも誠実に応えている姿勢が印象に残ります。
 大阪交響楽団では、自身のホームページに評論家の演奏批評を掲載し、厳しい批判を正面から受け止める姿勢を見せているし、関西フィルは徹底した顧客目線と関西だけでなく中国・四国地方にまでその地域密着型の営業を展開し、近隣では高松で毎年のように第九を演奏し、近年では岡山フィルが抑えておくべき筈の倉敷にまで関西フィルの営業の手が伸びている。

 競争が厳しい関西のオーケストラ業界。大フィルのような国内屈指の老舗オーケストラでも、ここまでやってるんです。岡山フィルは成立過程で東京のプランナーが深くかかわってきた経緯から、運営に関してもスマートな在東京オーケストラの手法を参考にしているフシがありますが、今後は大フィルや関西フィルなど在阪オケの方が学ぶべきことが多いのではないかと思います。そうすれば岡山フィルには出来ることがまだまだある。
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(市役所の玄関ホールで大フィルの奏者の演奏を待ちわびる、『大阪クラシック』の熱気にあふれた会場)
 かなり脱線してしまいましたが、小泉さんが指摘した演奏面や楽団経営面での問題点も、以前の岡山フィルのファンに対する姿勢も、すべて同根の問題がある。 
 それは楽団としての体制の脆弱さです。岡山フィル20年の歴史のなかで常に抱えてきた懸案。それに向けて私は一つ秘策を提案しようと思います。それについては次回。

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