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オペラ・チケットの値段 佐々木忠次著 講談社 [読書(音楽本)]

 いやはや、これほど過激な音楽本は読んだ事が無い・・・

オペラ・チケットの値段

オペラ・チケットの値段

  • 作者: 佐々木 忠次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/09
  • メディア: 単行本

・日本はなぜハード(ホールや劇場の建設)にばかりお金をかけ、ソフトにはお金をかけないのか?
・海外のオペラやオーケストラ公演のチケット代が、なぜこんなに吊りあがっていったのか?
 というような問題は、クラシックの世界にハマった人間なら一度は疑問に思う事。

 ほかにも、日本のオーケストラやバレエ団体の海外公演の実態は?、文化庁の芸術振興事業のゆがんだ実態、あるいは各国の日本大使館の文化音痴ぶり、などなど、非常に厳しい批判を展開している。
 特に新国立劇場の問題点に関しては、まことに辛辣。しかし、著者の現場での経験に基づくこれらの数々の批判は、悲しいかなほとんど当たっているであろうことが推測できるところが悲しい・・・

 一方で、日本のオペラ黎明期の「スタッフクラブ」の活躍や、マリア・カラスを初めて見た時の衝撃など、著者の貴重な体験談には胸が躍る。が、やはり全体的には日本のクラシック音楽、オペラ・バレエの問題点の指摘にほとんどの文面が割かれており、読むごとになんだか暗い気分になってしまう・・・・

 行政官僚制とそれに付随する補助金制度や、そのカネに群がる業界の構図というのが、いかに音楽芸術の真の成長の足かせになっているか・・・
 例えば、『○○交響楽団は、ヨーロッパ公演を大成功させた』と報じられたとする。しかし実態は旅費などの経費は全部自分持ち、出演料もタダ、チケットもタダで配って、客席には在留邦人ばかり・・・。得られるのはヨーロッパ公演を大成功させた、という『箔』であったり。

 一方で、本当に実力を認められるべく、努力している団体があっても、『日本のほかの団体はノーギャラで出演した』という負の実績が出演料のダンピングの温床になっており、いわば文化庁の補助を受けた日本の『土下座文化交流(と著者は述べている・・・)』にとことん足を引っ張られる、という・・・

(余談ですが、文化庁なり自治体の補助を受けて、例えば地方のオーケストラが例え『箔をつける』ためであっても海外公演をする事は、それなりに意義があるのではないかと思う。世界とトップレベルの実力を競い合う団体ばかりでは無く、地域に根差して活動する団体が、本場での演奏活動を通じて何かを得て帰ってくれればそれでヨシとしてもいいように思うのだ。逆の立場で言えば、「アジア・オーケストラ・ウィーク」は日本はホストの立場にあるわけだが、あのイベントだってホスト国にとっても意義のあるイベントなのであるから・・・)

 また我が国を代表する実力を持つ団体(東京バレエ団のような)には補助が出ない。それはなぜか?官僚にとってうまみが無いから。一方、実力が足りない団体が文化庁の補助を得て(代わりに官僚に天下りポストを差し出して)、「我が国の代表」として海外公演を華々しく展開する・・・

 薄々は解っていたけど・・・まあ、そういう実態があるようだ。著者は芸術・文化への国の補助を否定しているわけではなく、逆に欧米の名だたる劇場が、どれほどの公的補助を得ながら、一流の水準を維持しているかを力説する。要は適切なボリュームのお金を適切な方法で、適切な対象に補助をする、という当たり前の事が日本では行われていないということのようだ。


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ムース

興味深いですね。確かに海外公演は高いですね。ティーレマンは2万円でしたからね(勿論買いませんでしたが、友人の友人が来れなくなったので代理購入です。演奏は勿論よかったのですが)。オペラとかも高すぎるし滅多にやらないし、行っても何故かおばちゃんばっかりだし、全然行かないですね。オペラ用のホールは年間通じて歌謡ショーに使われていますからね。日本にはクラシック音楽が根付いていないというのはおそらくその通りでしょうね。
by ムース (2012-12-21 20:55) 

ヒロノミンV

>ムースさん
 本文では書きませんでしたが、オペラのチケット代が吊りあがった原因はバブル機に「メセナ」と称した各企業の大盤振る舞いによる公演企画だったようです。それにより『日本相場』が形成されてしまったという・・・
 思い返せば証券会社・銀行・家電メーカーなどなど、当時は冠のついたコンサートが多かったですよね。今でもフジテレビがベルリン・フィル公演の興行権を独占していますが・・・
 話は飛びますが日本はアマチュアのオーケストラや吹奏楽人口は世界屈指だそうです。そういう意味では『クラシック音楽が根付いている』と言ってもいいかもしれません。
by ヒロノミンV (2012-12-21 21:26) 

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